マッコウクジラ研究所

深海へ潜水する鯨類の潜水戦略:深海へと駆けていくヒレナガゴンドウ – マッコウクジラ研究室
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深海へ潜水する鯨類の潜水戦略:深海へと駆けていくヒレナガゴンドウ

マッコウクジラ、アカボウクジラ、ヒレナガゴンドウなどの中・大型のハクジラは、餌を求め深海へと潜ります。体の大きさや形が違う彼らは、同じように深海へと潜水するのでしょうか?バイオメカニクスとスケーリングの視点から、ヒレナガゴンドウは他の深く潜るクジラと少し変わった潜水戦略を持っていることが分かってきました。

 

さらに詳しく

息をこらえて潜る動物は、餌を食べる深さになるべく長くいるために、もっとも効率の良い速度(距離あたりの移動コストが最も少ない速度)で水面と深海を行き来します。深海へと潜るクジラは、とりわけ長い距離を泳がないといけないため、遊泳速度の選択は重い意味を持つはずです。数式モデルから、もっとも効率の良い速度は(休止代謝速度/抗力)1/3 に比例し1、動物の体重とともに速くなると予想されています。実際に、野外の水生哺乳類から得られたデータでも、水面と餌を食べる深さを行き来する巡行速度は体重とともに速くなることが分かっています2。その範囲は、およそ秒速1〜2メートルの間です。ヒレナガゴンドウの体重から予想される最も効率の良い速度は秒速約1.5メートルですが、野外で記録されたヒレナガゴンドウの巡航速度はその2倍の約秒速3メートルでした。ヒレナガゴンドウとよく似たコビレゴンドウも、速い速度で水面と深海を行き来していました3。一方、他の深く潜るクジラは、体重から予想される程度の速度か、やや遅い速度で水面と深海を行き来していました(図)。

 

ヒレナガゴンドウはなぜ速い速度で水面と深海を行き来するのでしょうか?ヒレナガゴンドウが、もっとも効率の良い速度で泳いでいたとすれば、前述した式から、休止代謝速度が高いか、他のクジラよりも抗力係数が低いからだと考えられます。ヒレナガゴンドウの体は特別にツルツルしていて、ほかのクジラより受ける抵抗が少ないのでしょうか。遊泳速度のデータから抗力係数を調べたところ、ヒレナガゴンドウの抗力係数は、他のクジラと大きく違いませんでした。

 

ヒレナガゴンドウは、何もしなくてもエネルギーをたくさん必要とする、エネルギー消費型なのかもしれません。あるいは、ヒレナガゴンドウには、急いで水面と深海を行き来しなければならない理由があるのかもしれません。

 

図は文献1,4を改変

 

参考文献

1) Sato, K., Shiomi, K., Watanabe, Y., Watanuki, Y., Takahashi, A. Ponganis, P. J. (2010). Scaling of swim speed and stroke frequency in geometrically similar penguins: they swim optimally to minimize cost of transport. Proc. R. Soc. B Biol. Sci. 277, 707-714.

 

2)Watanabe, Y. Y., Sato, K., Watanuki, Y., Takahashi, A., Mitani, Y., Amano, M., Aoki, K., Narazaki, T., Takashi, I., Minamikawa, S. et al. (2011). Scaling of swim speed in breath-hold divers. J. Anim. Ecol. 80, 57-68.

 

3)Aguilar Soto, N., Johnson, M. P., Madsen, P. T., Dı́az, F., Domı́nguez, I., Brito, A. and Tyack, P. Cheetahs of the deep sea: deep foraging sprints in short finned pilot whales off Tenerife (Canary Islands). Anim. Ecol. 77, 936-947. (2008).

 

4)Aoki, K., Sato, K., Isojunno, S., Narazaki, T. and Miller, P. J. O. High diving metabolic rate indicated by high-speed transit to depth in negatively buoyant long-finned pilot whales. Exp. Biol. 220, 3802-3811. (2017).